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ちょうへんさっかとしてのマクシム・ゴーリキイ

長篇作家としてのマクシム・ゴーリキイ

宮本 百合子

「長篇小説」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,925 字 · 4 页

青空文庫

一九三二年にモスク※(濁点付き片仮名「ワ」、1-7-82)へかえってから、ゴーリキイが「四十年」を書き続けられなかったということこそ自然です。作家として、ロシアの歴史、民衆というもの、新社会というものに対する心持の内部的組立てが変ってしまい、日常の感動が新鮮な脈うちで彼の正直な、老いても猶純な血液を鼓動させる裡で、ゴーリキイはソレント生活の気分の中で、考照し、追憶したロシア民衆を書いていたそれをそのまま続けられなくなったのは尤ともと肯けます。そして、ゴーリキイの芸術家としての生涯は、こうして「四十年」を書きつづけ得なく成ったことで、遂に健全にされ、ゴーリキイ自身、自分の全生涯の過程と蓄積とを改めて人類的な見地から眺め、人類の文化の進歩の問題から観得るように高まったということは、これ又何という意味深い暗示でしょう。このことの中に芸術家の生涯というものの無限の美がふくまれていると思います。

〔一九三七年三月〕