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かんちょうざじけん

間諜座事件

海野 十三

「日曜報知」1932(昭和7)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,989 字 · 21 页

青空文庫

そのとき彼の眼底に映った一人の踊り子があった。その踊り子は、他の九人と同じように調子を揃えて踊っているのであるが、何だかすこし様子が変である。

どう変なのかと、尚も仔細に観察をしていると、成程一つのおかしいことがある!

その踊り子は頭を左右に、稍振りすぎる嫌いがあるのだ。

いや、もっと別の言葉で云うことが出来ると思う。――その踊り子は首を左に傾けているうちに、急に驚いたように首を右に傾け直すのだった。首を、その逆に右から左へ傾け直す行動は自然に円滑に行われるのだった。唯左に曲っている首を右に傾け直すときに限り、非常に不自然な行動が入った。

もっと別の言葉で云える。つまりそんな不自然な行動も左の眼が悪いからこそ起るのだ。左の眼が悪いときは、悪い方の眼は見えないから右の一眼で前面を見ることになる。そのためには顔を正面に向けていたのでは、左の方が見えない。それを補うためには右の眼を身体の中心線の方に寄せる必要がある。その時に顔を曲げねばならぬ。このとき人間は首を左へ曲げる!

左眼の悪い人間は、つまり、常に左に首を曲げている。しかし踊り子がいつも左へ傾いた顔をしていたのでは美感上困る。