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かっか
閣下
佐々木 邦
「面白倶楽部」1925(大正14)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,494 字 · 16 页
その結果自分の頭は硝子で出来ているなぞと言い出して周囲のものに好い苦労をかけるのがあると聞いている。私は閣下も幾分精神に異状が来ているのではないかと思った。
「小林さん、一つ見て下さらんか?」
と閣下は何処までも真剣らしい。
「拝見しますかな?」
と私は相談的に奥さんを顧みた。
「御覧なすって、そんなものはないと得心させて下さいませ」
と奥さんが頼んだから、私はベッドの方へ椅子を摺り寄せた。尤も食いつかれでもするといけないと思ったから、手は出さなかった。閣下は大口を開いた。私は首を傾げて覗き込んだが、異物は一切認め得なかった。
「何もありませんのにな」
「あるよ、君」
「いゝえ、ありません」
「ある。これだ」
と囁いて、閣下は舌をペロ/\動かした。
「はゝあ!」
と私は敬服してしまった。
「何かございましたか?」
と奥さんは吃驚したようだった。
「いゝえ、何にもございません」
と私は慌てゝ打ち消した。
閣下はチブスの肥立ちでも駈引を忘れない。実は酒が飲みたいのである。刺身が食べたいのである。カラスミが噛み締めたいのである。しかし理性の人としてはそれを口に出して言う次第に行かなかったのである。