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かっか
閣下
佐々木 邦
「面白倶楽部」1925(大正14)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,494 字 · 16 页
予備になったばかりで閑だったのだろう。その為めか、隣りはズン/\進行するのに、私の方は腹の立つほど捗らない。或日普請場で棟梁に小言をいっていると、北隣りを借りて工事を始める人が挨拶に寄った。これが矢張り軍人で、砲兵大佐とあった。妙に国家の干城に縁があると思った。近所合壁としては性の知れない人間は好ましくない。然るに軍人ぐらい性の知れたものはないし、軍人なら強かろうという子供のような考えも手伝った。私はその日家へ帰って、
「両隣りを歩兵と砲兵が守っていてくれゝば泥棒丈けは大丈夫だ」
と冗談を言った。
その後間もなく方々へ家が建ち始まった。私の家がその夏漸く出来上った頃には、貸地は悉皆契約済みになっていた。そうしてその年の暮には似たり寄ったりの小ぢんまりとした家がギッシリと丘の麓を取り巻いてしまった。僅か十数年前のことだけれど、昨今の文化家屋の如きものは一軒も見えなかった。短日月の中に人心が軽佻に流れ浮薄に赴くこと驚くべきである。
両隣りの外に近所との交際は全くなかった。毎日のように行き合って見知り越しになった盤台面も何処の主人公か分らなかった。先方も然うだったに相違ない。