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おかめ
阿亀
豊島 与志雄
「文芸春秋」1925(大正14)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,900 字 · 14 页
……まあ嬉しい方が多いだろうよ、ねえそうだろう。」
ぼんやり皆の話を聞いてた年若なお千代は、突然話の先を向けられて、甘ったるい眼付を瞬いたが、ふいに早口に叫んだ。
「あら、嫌な佐藤さん。」
拍子ぬけのするくらい間を置いたその叫びに、佐藤さんは初めて、機械的でない笑みを浮べた。
「おう喫驚した、何だい。」
木谷は全く拍子ぬけがしたらしく、わざとらしい口を利いて、思い出したようにキューを取上げた。
「なあに、たとえ話だよ。」ゆっくりと云ってのけて、佐藤さんは僕の方へ向き直った。「私はあなたが、もっと無遠慮に口を利かれたら面白いと思って、待っていたのですが、案外つまらなく終ってしまって……。ですが、誰も遠慮ばかりしてるところだったので、愉快でした。これからは、伊坂さんも気兼がなくなって、来易いでしょうよ。」
先程の陰鬱な感じが消えて、彼は実際愉快そうな顔付をしていた。黒い額と眼とが輝きを帯びてるように見えた。
僕は一寸挨拶に困って、それから妙に恐縮した。
「いや、とんだ不作法なことをしてしまって、弱りました。」
「不作法なものですか。気が弱くちゃいけません。」
僕はそこで、頭ごなしにやっつけられた気がして、黙りこんでしまった。