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おかめ

阿亀

豊島 与志雄

「文芸春秋」1925(大正14)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,900 字 · 14 页

青空文庫

天井の高い広間の明るみの中に、白々と浮出していながら、殆んど人の注意を惹かないくらいまで、安らかに落着き払っていた。

が、或る晩、その阿亀の面が、本当ににこにこっと笑い出した、と云って佐竹謙次郎が、次のような話をした。

風がなくて、霧が深かった。満腹していた。酒の酔が、全身に隈なく廻っていた。うまい煙草でも吹かしたい気持だった。――だから、僕は木谷についていった、もう十時過ぎだというのに。

「十時といったって、撞球場ではまだ宵のうちだぜ。看板は十二時迄だが、大抵一時過ぎになるんだから。」

然し僕は、木谷みたいに、そこの家の常連ではない。それに、撞球はからっ下手でさほどの興味もない。ただ、赤と白との四つの象牙球が、表面に美しい光の反映を浮べながら、青羅紗の上をつつーと滑ったり、こーんとぶつかったりする、それを眺めてるのが好きなだけだ。

――煙草でも吹かして見物するか。

七八間先は見えないほどの濃霧だった。その中から、天井も壁も真白な広い撞球場の中に飛び込むと、心の眼がぽかっと開いたような工合だった。阿亀の面が、没表情な永遠な笑顔で、天井の一隅から見下している。