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おかめ
阿亀
豊島 与志雄
「文芸春秋」1925(大正14)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,900 字 · 14 页
――おや、変なところに……。
じっと見つめると、お久はあるかないかの会釈を眼付に示して、そのまま顔を伏せてしまった。
見廻したが、連れらしい者もない。
――変な奴だな、カフェーから姿を隠し、こんなところに……。
怪しいという気持と、一寸親しみの気持とで、何気ない風をして寄っていった。
「暫くだね……。」
低めたつもりの声が、がんと響いたと思われるほど強く反応して、彼女ははっと顔を挙げた。
「どうしたんだい……球を撞くのかい。」
真正面に見向いてる眼が、軽い滑稽な敵意を帯びて、わざとらしく睥めている。――二三ヶ月以前よりは、顔が引締って綺麗になっていた。
「いいえ、球なんか……。」
「じゃあ……。」
「一寸用があった……。」
「へえー……。」
「今ね、家をもってるのよ。」
笑いかけた眼付へ、とたんにぶっつけられたその言葉が、低く、説きさとすような調子に響いたので、持ってゆきどころのない気持から、ぼんやりと眼と口とを打開いた。と、彼女はくしゃくしゃな顰め顔をした。目玉を寄せ、眉根を寄せ、頬辺と口許とを歪めて、怒ってるのか笑ってるのか分らない、痙攣的な顰め顔だった。