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あなんとじゅじゅつしのむすめ
阿難と呪術師の娘
岡本 かの子
「読売新聞」1928(昭和3)年5月6日~6月19日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,425 字 · 58 页
夫婦のように二つつながって居る餅を下さった。大勢はあの方を罵った。わたしにえこひいきするのだと罵った。わたしはあの方が決してえこひいきしたのではない事を知って居る。だから大勢の理不尽に向って激しい憤りを覚えた。あの方を袖で掩うて上げ度い程お気の毒に思うた。しかし其心の下から、ああ恋は何という手前勝手なものだろう。わたしはこの間違いを悦んで居る。あの方の心がわたしに傾いて居るようにお言われなさったのを悦んで居る。そしてともすればあの方が本当にわたしをえこひいきして下さったのじゃないかしらんと自惚れ心がつけ上って来る。浅墓にもいじらしいわが心よ。しかしお前は気をつけねばいけない。あの方は禁慾離苦の御身だ。あの方を真に思って上げるなら、あの方を忘れて上げなければいけない。あきらめるということがあの方に向っての恋の真ごころでなければならない。餅を捨てるが宜い。餅を捨てるが宜い。ああ、しかし――この清らかな繭のような餅を見るとき、捨て難きあのおん方――思い断ち難きわが心――。
(あとより忍んでついて来た外道の論師、この時娘に声をかける。)
論師 ――娘よ。餅を捨てるに及ばぬ。