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いんえいらいさん
陰翳礼讃
谷崎 潤一郎
「経済往来」1933(昭和8)年12月号、1934(昭和9)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,020 字 · 61 页
夕方、汽車の窓などから田舎の景色を眺めている時、茅葺きの百姓家の障子の蔭に、今では時代おくれのしたあの浅いシェードを附けた電球がぽつんと燈っているのを見ると、風流にさえ思えるのである。しかし煽風器などと云うものになると、あの音響と云い形態と云い、未だに日本座敷とは調和しにくい。それも普通の家庭なら、イヤなら使わないでも済むが、夏向き、客商売の家などでは、主人の趣味にばかり媚びる訳に行かない。私の友人の偕楽園主人は随分普請に凝る方であるが、煽風器を嫌って久しい間客間に取り附けずにいたところ、毎年夏になると客から苦情が出るために、結局我を折って使うようになってしまった。かく云う私なぞも、先年身分不相応な大金を投じて家を建てた時、それに似たような経験を持っているが、細かい建具や器具の末まで気にし出したら、種々な困難に行きあたる。たとえば障子一枚にしても、趣味から云えばガラスを篏めたくないけれども、そうかと云って、徹底的に紙ばかりを使おうとすれば、採光や戸締まり等の点で差支えが起る。よんどころなく内側を紙貼りにして、外側をガラス張りにする。そうするためには表と裏と桟を二重にする必要があり、従って費用も嵩むのであるが、さてそんなにまでしてみても、外から見ればたゞのガラス戸であり、内から見れば紙のうしろにガラスがある