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いんえいらいさん

陰翳礼讃

谷崎 潤一郎

「経済往来」1933(昭和8)年12月号、1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,020 字 · 61 页

青空文庫

間接照明を使っている帝国ホテルだけはまず無難だが、夏はあれをもう少し暗くしてもよかりそうに思う。何にしても今日の室内の照明は、書を読むとか、字を書くとか、針を運ぶとか云うことは最早問題でなく、専ら四隅の蔭を消すことに費されるようになったが、その考は少くとも日本家屋の美の観念とは両立しない。個人の住宅では経済の上から電力を節約するので、却って巧く行っているけれども、客商売の家になると、廊下、階段、玄関、庭園、表門等に、どうしても明りが多過ぎる結果になり、座敷や泉石の底を浅くしてしまっている。冬はその方が暖かで助かることもあるが、夏の晩はどんな幽邃な避暑地へ逃れても、先が旅館である限り大概都ホテルと同じような悲哀に打つかる。だから私は、自分の家で四方の雨戸を開け放って、真っ暗な中に蚊帳を吊ってころがっているのが涼を納れる最上の法だと心得ている。

○

この間何かの雑誌か新聞で英吉利のお婆さんたちが愚痴をこぼしている記事を読んだら、自分たちが若い時分には年寄りを大切にして労わってやったのに、今の娘たちは一向われ/\を構ってくれない、老人と云うと薄汚いもののように思って傍へも寄りつかない、昔と今とは若い者の気風が大変違ったと歎いているので、何処の国でも老人は同じようなことを云うものだと感心したが、人間