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いんえいらいさん
陰翳礼讃
谷崎 潤一郎
「経済往来」1933(昭和8)年12月号、1934(昭和9)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,020 字 · 61 页
食べる物でも、大都会では老人の口に合うようなものを捜し出すのに骨が折れる。先だっても新聞記者が来て何か変った旨い料理の話をしろと云うから、吉野の山間僻地の人が食べる柿の葉鮨と云うものの製法を語った。ついでにこゝで披露しておくが、米一升に付酒一合の割りで飯を焚く。酒は釜が噴いて来た時に入れる。さて飯がムレたら完全に冷えるまで冷ました後に手に塩をつけて固く握る。この際手に少しでも水気があってはいけない。塩ばかりで握るのが秘訣だ。それから別に鮭のアラマキを薄く切り、それを飯の上に載せて、その上から柿の葉の表を内側にして包む。柿の葉も鮭もあらかじめ乾いたふきんで十分に水気を拭き取っておく。それが出来たら、鮨桶でも飯櫃でもいゝ、中をカラカラに乾かしておいて、小口から隙間のないように鮨を詰め、押蓋を置いて漬物石ぐらいな重石を載せる。今夜漬けたら翌朝あたりからたべることが出来、その日一日が最も美味で、二三日は食べられる。食べる時にちょっと蓼の葉で酢を振りかけるのである。吉野へ遊びに行った友人があまり旨いので作り方を教わって来て伝授してくれたのだが、柿の木とアラマキさえあれば何処でも拵えられる。