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かいだん

階段

海野 十三

「新青年」博文館、1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,588 字 · 32 页

青空文庫

「なにを勘ちがいしているのだ、僕じゃない」

「隠しても駄目よ。あんた、三階の階段にこの本を置いといたでしょう。リューマチの佐和山さん、あの本を踏むと滑り落ちたのよ、なにもかも知っているわ、所長のときのこと、四宮さんのこと」

「いやちがう」僕は当惑した。何と言ってミチ子をなだめたものだろうかと眼の前に立つミチ子の肩をつかまえようとしたときに、佐和山女史墜落の音をききつけた所員が方々からドヤドヤと駈けつけた。僕は、もう力もなにもぬけちまって

「二階を、二階を!」

と指して所員の応援を求めた。

二三人の所員がかけあがる。

と予期したとおり大きな喚声が二階にあがった。

「四宮さんがネクタイで絞殺されている!」

「なに、四宮君が……」

彼女こそ、やったのではあるまいかと、その顔を見詰めた。睫毛の美しいミチ子の大きな両眼に、透明な液体がスウと浮んで来た。ふるえた声でミチ子が言った。

「……だから、あたし、貴方のために、殺人の証拠になる此の本を取って来てあげたのよ」

5

佐和山女史の懐中からは、四宮理学士の撮った跫音の曲線をうつした写真が出た。それは多分、三階のどこかに学士が危険を慮って、秘かに隠匿して置いたものであろう。