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しょうじのらくがき
障子の落書
寺田 寅彦
「ホトトギス 第十一巻第四号」1908(明治41)年1月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,170 字 · 7 页
細君の方は子供の帽子を気にして直しているが、子供はまたすぐに阿弥陀にしゃくり上げる。子供の顔はよく両親に似ている、二人のまるでちがった容貌がその児の愛らしい顔の中ですっかり融和されてしまってどれだけが父親、どれだけが母親のと見分けはつかぬ。児の顔を見て後に両親を見くらべるとまるでちがった二つの顔がどうやら似通って見えるのが不思議である。姪はあまり両親には似ないで却ってよく平一に似ていると妹が云った事も思い出した。妹婿は日曜などにはよく家内連れで方々へ遊びに出た。達者で居たら今日あたりはきっと団子坂へでも行っているだろうと思う。妹は平一が日曜でも家に籠って読書しているのを見て、兄さんはどうしてそう出嫌いだろう、子供だってあるではなし、姉さんにも時々は外の空気を吸わせて上げるがいいなどと云った事もある。こんな事を思い出しては無意味に微笑している。
向うの子供づれは須田町で下りた。その跡へは大きな革鞄を抱えた爺と美術学校の生徒が乗ってその前へは満員の客が立ち塞がってしまう。窮屈さと蒸された人の気息とで苦しくなった。上野へ着くのを待ち兼ねて下りる。山内へ向かう人数につれてぶらぶら歩く。