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ざっきょかぞく

雑居家族

壺井 栄

「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页

青空文庫

あきらかにそれは相手に対する一種の虚勢とみた。微笑はあっても眉はくらい。浜子の方も開きなおったあとのみえをはったような作った表情で、

「どうもありがとう。」

と、中腰で茶をいれてくれる音枝に、大きな声で礼をいった。

「嵯峨沢のせんべい、あるかね。」

安江は最近いった伊豆の宿でもらった名物の栗せんべいを思い出していった。

「ある――と思うけど……」

さっと立ってゆく後姿へ、安江は、

「音枝もお茶わんもってらっしゃいよ。」

その声にもやはり何かがあると音枝は思う。せんべいは三枚しかなかった。でもよかったと思いながら一つの菓子ざらにのせ、浜子と向いあった場所にすわると、安江が茶をいれた。

「これだけしかないのよ。」

三枚のせんべいをまず浜子の方へすすめると、浜子はすぐ手を出す。そして、

「わたし、このせんべ、大すき。」

しかし安江はだまって目を伏せている。音枝にとっては、いき苦しいふんいきだった。スーツのことを、いってみようか、そしたらみんなの気もちがほぐれるかもしれぬと思ったが、適当な言葉が見つからず、湯飲みを手にのせてぐるぐる回しながら、ざくろの絵をながめた。いつか母が旅行の途次、京都の有名な陶工にもらってきた湯飲みだった。