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ざっきょかぞく

雑居家族

壺井 栄

「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页

青空文庫

巷の風

大きな粒の立派なイチゴだった。にこにこしながら、

「はい、おまち、どうさま。」

通い盆のまま机の上におくと、それを合図のように文吉はかたひざ立って小窓をあけた。ひやっこい夜風と一しょに、大きな黒い影がぱたぱたと電灯をかすめた。蛾である。

「あっ!」

三人は手当り次第の新聞や雑誌をもって追っかけた。部屋中に粉をふりまかれた上ようやくつかまえたのは、安江だった。新聞にくるんでねじもんでぽいと捨てながら安江はふいと浜子のことを思い出していた。

巷の風

国電田端駅の階段をゆっくりと上ってゆく兵六さんの足もとは、どうみてもさだかではない。ふらりふらりと、階段の壁につかまるようにして歩くさまは、見ようによってはまるでそこらで一ぱいひっかけた人のような悠長さにみえるが、追いこしてふりかえってみたとすれば、虚無とつながる深い悲しみのような表情に人々はおどろくにちがいない。といっても、あとからあとからと上ってくる人たちは、だれひとりふりかえりはしなかった。その限りで兵六さんは自由であり、だれに気をつかうでもなく、心の限り悲哀にひたることも出来たし、虚無に身をまかせることもできた。