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ざっきょかぞく

雑居家族

壺井 栄

「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页

青空文庫

「なにいってんのよ。そんなお金、ありゃしない。」

「うそだ、うそだ。おねえちゃんいつだって銀行へいってさ、もらってくるじゃんか。」

「だって、それは、小切手なら一たん銀行へ入れないととれないからよ。それに、おかあちゃんにだまってなんか、お金だせないのよ。」

「ほうらみろ、あるじゃないか。おねえちゃんていつもケチなんだ。でも、おかあちゃんはケチじゃないよ。もうせん、みんなにお金おくってあげたもん。そいでね――」

いつか安江が、病気の貧しい姉と、やはり病気の友人と、結婚するという姪とに同時に現金書留を送ったときのことを夏樹は思い出していたのだった。偶然その場へとびこんで、五千円ずつ、一万五千円の金が目の前でなくなるのをみたとき、彼はおしんだのである。

「おかあちゃん、損するね、ぼくんちのお金、あるの。」

すると安江は、

「あるさ、お金なんて日本中、どこの銀行にも一ぱいあるよ。――だからね夏樹、そんな惜しそうな顔するもんじゃないよ。お金なんてものは、ひとりでかかえこんどくものじゃないんだからね。あるものが、ないものにあげるのよ。おぼえとき――」

正直いってそのときの栗本家の銀行預金の帳じりは六千五百何十円かであった。