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ざっきょかぞく
雑居家族
壺井 栄
「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页
六千五百円が残っているというのはまだ珍らしい方で近くそれも出払う予定になっている。出し入れの係はもちろん音枝である。音枝は時々、栗本さーんときれいな声で呼ぶ銀行の窓口の女の子にはずかしくなることがあった。つまり、六千五百何十円を、たまには次の小切手預入までもちこたえたいのだ。そうでなければ、せめて五千円だけ出して千五百何十円かでも残しときたいと思う。ところが、栗本家の財政は文吉のサラリー日がまちきれなくて月中こすと五百円の半ばを残すことさえできない。四十五円などという帳じりは毎度のことだった。しかし入れたら三日目には必ず出払ってしまうそんなからくりなど、七歳の夏樹にわかろうはずがない。彼にとっては、一万五千円を人にくれてやった母の度胸を日本一の金もちと思い、自分を金持のむすこだと思っているのかもしれない。だから彼は、安江のいい分を、やすやすとうけつぎ、実行する立場に自分をおいこんでしまった。
「ね、ぼく、おかあちゃんにそういってきてあげる――」
安江の部屋へゆこうとするのを、音枝は素早く引きとめ、
「だめ。だめよ、おかあちゃん、仕事できないとしかられるわよ。