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ざっきょかぞく
雑居家族
壺井 栄
「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页
ともしび
しかしそんな中で、浜子が無事らしいのはもうけものだと思った。
月が上るらしく、空のはずれの方からあかるんできた。
ともしび
がちゃりん ごとんと独特な車のひびきを聞きつけると、浜子は部屋をとび出していって、兵六さんをむかえる。
「お帰りなさい、おじさん。暑かったでしょう。お豆腐、ひやしてあるわよ。」
こんな風だから、浜子がきて以来、兵六さんは一そう商売にはげみが出ていた。どんなにおそく帰ってきても、家にあかりがついていて、自分を待っている者があるということは、それだけで疲れの半分が洗い落される思いだった。大衆食堂のよごれた壁にむかって、ひとりどんぶり飯を食うわびしさも今はなくなり、いそいそとして帰ってくる兵六さんだ。出がけに浜子が、かんかんでりの空をながめて、
「おじさん、きょうも暑くなりそうよ。あんまり遠くへいきなさんな。木のかげかなんかへ車おいてさ、すずみすずみ、売れるだけ売ればいいじゃないの。からだこわしちゃあ、元も子もないわよ。」
まるで母親が子供にでもいって聞かすような調子だ。こんなことは兵六さんにとっては近ごろ珍らしい。だから兵六さんは、いたわられるといい気持になり、やっぱり出かける。