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ざっきょかぞく

雑居家族

壺井 栄

「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页

青空文庫

ふたりがあいさつの構えでかしこまっている前へ、インバネスをぬいだ兵六さんは、いきなり手をつき、あいさつぬきで、

「おり入ってのたのみがあってね――一つ相談にのっておくれや、実はね――」

と、きり出したのが赤ん坊をもらってくれという話だった。それは兵六さんの商売上の大切な取引先の子供で、その子を産んで五日目に母親はなくなったのだという。たのまれて兵六さんは、ここ二か月というもの、赤ん坊はいらんか、赤ん坊はいらんかと、あっちこっちかけずりまわっているという。しかし女の子はだれももらい手がないというのだ。そういった口の下で、

「――話があったとき、ここのことがまっ先に頭に浮んだんだけどね、新婚のところへあんまりかと思って遠慮していたのさ。しかし、やっぱりここよりほか、もう考えられなくなってね。ここがその子のために一番かもしれん、子供はないし、人柄はよし、とにかく、たのむからには、たのむようにするつもりじゃがな。それは任してもらうとして、どうじゃろう文吉つぁん。」

「さあ。」

そういって文吉は安江の顔をみる。

「そんなら、お安さんの方はどうじゃろう。何というてもこれは、お安さんにうんというてもらわんかぎり、たとえ文吉つぁんがうんといってくれても、成り立たん話でなあ。