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ざっきょかぞく
雑居家族
壺井 栄
「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页
それを聞かせてやるときには安江自身も歌に酔ったようにいい気持になる。そして音枝のまぶたがうとうとしはじめると、歌ってやるのである。
誕生にちにはあわに米まぜて
あいにゃササゲもトトまぜる
そっとぬけて出て文吉のいるとなりの部屋へゆく。内職の裁縫をやろうとすると、文吉は、やっぱり内職原稿のペンをおいて、
「お前、今の歌、書いとくといいね。お前、童話を書くといいな。おもしろいよきっと。」
そんな自信のない安江はてれてえへえと笑う。
貸家札がいたるところに目につくようないわゆる不景気な時代だった。安江たちは転々として居を移り、その移ることで気持を新たにしていた。そのうだつのあがらぬ暮しの中で、音枝の存在は彼ら夫婦を世間なみらしい生活ぶりに落ちつかせるに役立った。音枝もことしはいよいよ小学校である。あと三か月しかない。
「一たいどうなるの。人、バカにしてるわ。だまってればほっとくつもり?」
音枝のいないところで、安江は当の相手が文吉ででもあるようにおこった声を、たびたびあびせる。学校にあがるとなれば、今までのようなのん気さではいられないと思うからだ。それなのに、兵六さんも、音枝の父の長坂からもそれについて何ともいってこないのだ。