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ざっとう
雑沓
宮本 百合子
「中央公論」1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,832 字 · 50 页
宏子の塾もその一つであった。市内からもまわりの村からも隔離されて雑木林の中にある環境は、学生生活にとって様々の不利、経営者には便宜である不便に満ちているのであった。
よそに行っていて不図わが家の情景が髣髴する、そんな鮮やかさで、西日を受け赤銅色に燃え立っている欅の梢や校舎の白い正面。単調に、遠くからポッツリ人の姿を見せる田舎道の様子などが、宏子の心に甦った。裏庭では、さっきから順二郎が植木屋と喋っている声がしている。ほかに呼びようがないから、私のうち、と宏子も呼ぶ家。そこに充満している両親の生活。それは宏子を引きつけ同時に惹きつけたよりもっと複雑なもので宏子を弾きのかす。だが、塾が云うところない生活というのではもとよりないのである。
この時、カン※(濁点付き片仮名「ワ」、1-7-82)ス椅子の背に頭をもたせかけ、スウェータアの胸の下でゆったり二つの腕を組み合わせている宏子の真面目な若い顔に、皮肉と無邪気な悪戯っぽい可笑しさの混りあった笑いが浮んだ。今朝になって、瑛子は昨夜むしゃくしゃまぎれに、宏子をひとも来ているのにと云ったことを少し後悔しているらしかった。