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ざっきちょうより(いち)

雑記帳より(Ⅰ)

寺田 寅彦

「文体」1934(昭和9)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,305 字 · 5 页

青空文庫

これはやはり買ってやる方がいいと思う。憎むにはあまりにみじめな商売なのである。

三

文楽の義太夫を聞きながら気のついたことは、あの太夫の声の音色が義太夫の太棹の三味線の音色とぴったり適合していることである、ピアノ伴奏では困るのである。

小唄勝太郎の小唄に洋楽の管絃伴奏のついた放送を聞いた。勝太郎の声のチャームがすっかり打消されてしまっている。この人の声はやはり唄三味線の絃の音色に乗るように練習して来たものである。

四

ある食堂の片隅の食卓に女学生が二人陣取ってメニューを点検していた。「何たべる」「何にしよう」……「御飯だの、おかずだの別々にたべるの面倒くさいわ、チキンライスにしましょう」。

ある家庭で歳末に令嬢二人母君から輪飾りに裏白とゆずり葉と御幣を結び付ける仕事を命ぜられて珍しく神妙にめったにはしない「うちの用」をしていた。裏白やゆずり葉を輪の表に縛り付けるか裏につけるかを議論していた。そのうちに妹の方が「こんなもの、はじめから結び付けて売っていればいいと思うわ。その方が合理的だわ……」。このチキンライスの話と輪飾りの話には現代思潮の反映がある。