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ざっきちょうより(いち)

雑記帳より(Ⅰ)

寺田 寅彦

「文体」1934(昭和9)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,305 字 · 5 页

青空文庫

そうかと思うとまたある日本食堂で最近代的な青年二人と少女二人の一行が鯛茶を注文していたが、それが面前に搬ばれたときにこの四人の新人は、胡麻味噌に浸された鯛の繊肉を普通のおかずのようにして飯とは別々に食ってそうして最後に茶を別々に飲んでいた。ここにも伝統の破壊があるのである。一九三三年のオリジナルな鯛茶の喰い方なのである。

五

幕末ものの映画をその組成要素に分解してみると、割合に少数なエレメントで大抵の用を便じていることが分かる。「密謀の集会」「大広間の評定」「道中の行列」これには大抵同じ土手や昭和国道がつかわれる。「花柳街のセット」「宿屋の帳場」「河原の剣劇」「御寺の前の追駆け」「茶屋の二階の障子の影法師」それから……。それからまたどの映画にも必ず根気よく実に根気よく繰返される退屈な立廻りが、どうも孑の群や蚊柱の運動を聨想させる。これを製作する監督、またそれを享楽する映画ファンの忍耐心の強いのは驚嘆すべきものである。そうしてまた、あれだけ大勢があれだけ多数の大刀を振廻わして、そうして誰も怪我をしないようにするという芸術はおそらく世界にユニークなものであろう。