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あめ
雨
織田 作之助
「海風」1938(昭和13)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,261 字 · 44 页
「あッ、あれは毛利のちんぴらや」
と、自転車を走らせて急を知らせてくれ、お君が駆けつけると、黄昏の雪空にもう電気をつけた電車が何台も立往生し、車体の下に金助のからだが丸く転がっていた。
ぎゃッと声を出したが、不思議に涙は出ず、豹一がキャラメルのにちゃくちゃひっついた手でしがみついてきたとき、はじめて咽喉のなかが熱くなった。そして何も見えなくなった。やがて活気づいた電車の音がした。
その夜、近くの大西質店の主人が大きな風呂敷を持ってやってき、おくやみを述べたあと、
「じつは先達てお君はんの嫁入りの時、支度の費用やいうて、金助はんにお金を御融通しましてん。そのとき預ったのが利子もはいってまへんので、もう流れてまんねんけど、何やこうお君はんの家では大切な品もんや思いまんので、相談によっては何せんこともおまへん、と、こない思いましてな。いずれ電車会社の……」
慰謝金を少くも千円と見こんで、これでんねんと差し出した品を見ると、系図一巻と太刀一振であった。ある戦国時代の城主の血をかすかに引いている金助の立派な家柄がそれでわかるのだったが、はじめて見る品であった。