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あめ
雨
織田 作之助
「海風」1938(昭和13)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,261 字 · 44 页
ここでおどおどしては俺もお終いだと思うと、眼の前がカッと血色に燃えて、
「用って何もありません。ただ歩いているだけです」
呶鳴るように言うと、紀代子もぐっと胸に来て、
「うろうろしないで早く帰りなさい」
その調子を撥ね飛ばすように豹一は、
「勝手なお世話です」
「子供のくせに……」
と言いかけたが、巧い言葉が出ないので、紀代子は、
「教護聯盟にいいますよ」
と、近ごろ校外の中等学生を取締っている役人を持ちだした。
「いいなさい」
「強情ね、いったい何の用」
「用はない言うてまんがな。分らん人やな」
大阪弁が出たので、紀代子はちらと微笑し、
「用がないのに踉けるのん不良やわ。もう踉けんときでね。学校どこ?」
「帽子見れば分りまっしゃろ」
「あんたとこの校長さん知ってるわ」
「いいつけたらよろしいがな」
「いいつけるよ。本当に知ってんねんし。柴田さんいう人でしょう」
「スッポンいう渾名や」
いつの間にか並んで歩きだしていた。家の近くまで来ると、紀代子は、
「さいなら。今度踉けたら承知せえへんし」
まず成功だったといえるはずだのに、別れぎわの紀代子の命令的な調子にたたきつけられて、失敗だと思った。