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あめ
雨
織田 作之助
「海風」1938(昭和13)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,261 字 · 44 页
どうせ朝まで客は拾えないし、それにその日雨天のため花火は揚らなかったが廓の創立記念日のことであるし、なんぞええことやるやろと登楼を薦めた。むろん断ったが、十八にもなってと嘲られたのがぐっと胸に来て登楼った。長崎県五島の親元へ出す妓の手紙を代筆してやりながら、いろいろ妓の身の上話を聞いた。話は結局こういう生活をどう思うかというところに落着いたが、妓が金に換算される一種の労働だと思い諦めているのを知って、だしぬけに豹一の心は軽くなった。今まで根強く嫌悪していたものが、ここでは日常茶飯事として簡単に取引きされていたのだ。そういうことへの嫌悪にあまりに憑かれていた自分があほらしくなった。豹一ははじめて女を知った。けれども、さすがに窓の下を走る車のヘッドライトが暗闇の天井を一瞬明るく染めたのを見ると、慟哭の想いにかられた。
どういう心の動きからか、豹一はその後妓のところへしげしげと通った。工面して通う自分をあさましいと思った。なぜ通うのか訳がわからなかった。惚れているという単純な言葉がなかなか思いつかなかった。嫌悪しているものに逆に引きつけられるという自虐のからくりには気がつかなかった。