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あめ
雨
織田 作之助
「海風」1938(昭和13)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,261 字 · 44 页
火鉢の側に腰を浮かして半時間ばかりうずくまっていると、
「魂抜けて、とぼとぼうかうか……」
声がきこえ、湯上りの匂いをぷんぷんさせて、帰ってきた。その顔を一つ撲ってから、軽部は、
「女いうもんはな、結婚まえには神聖な体でおらんといかんのやぞ。キッスだけのことでも……」
言いかけて、お君を犯したことをふと想いだし、何か矛盾めくことを言うようだったから、簡単な訓戒に止めることにした。
軽部はお君と結婚したことを後悔した。しかし、お君が翌年の三月男の子を産むと、日を繰ってみて、ひやっとし、結婚してよかったと思った。生れた子は豹一と名づけられた。日本が勝ち、ロシヤが負けたという意味の唄がまだ大阪を風靡していたときのことだった。その年、軽部は五円昇給した。
その年の暮、二ツ井戸の玉突屋日本橋クラブの二階広間で広沢八助連中素人浄瑠璃大会が開かれ、聴衆約百名、盛会であった。軽部村彦こと軽部村寿はそのときはじめて高座に上った。はじめてのことゆえむろん露払いで、ぱらりぱらりと集りかけた聴衆の前で簾を下したまま語ったが、それでも沢正オ! と声がかかったほどの熱演で、熱演賞として湯呑一個もらった。