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あめ
雨
織田 作之助
「海風 第四巻二号」1938(昭和13)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,421 字 · 60 页
軽部がそれを知らずに死んだことは彼の不幸の一つであった。お君にそれを知らさなかった金助も金助だが、お君もまたお君で、そんなもの私には要用おまへんと質店主人の申出を断り、その後、家柄のことなぞ忘れてしまった。利子の期間云々などと勿論慾にかゝって執拗にすゝめられたが、お君は、たゞ気の毒そうに、「私にはどうでもえゝことですから。それに」電車会社の謝罪金は何故か百円にも足らぬ僅少の金一封で、その大半は、暇をとることになった見習弟子に呉れてやる腹であった。
そんなお君に中国の田舎から出て来た親戚の者はあきれかえって、葬式骨揚げと二日の務めをすますとさっさと帰って行き、家の中がガランとしてしまった夜、体をしめつける異様な重さにふと眼を覚まして、だれ、と暗闇に声をかけると、思わぬ大金をもらって気が強くなったのか或は変になったのか、こともあろうに、それは見習弟子であった。重さに抗ったが、何故か抗う動作が体をしびらしてしまった。
翌日、見習弟子は哀れなほどしょげ返りお君の視線をさけて、不思議な位であったが、夕方国元から兄と称する男が彼を引取りに来ると、ほっとした顔付になった。