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あめ

雨

織田 作之助

「海風 第四巻二号」1938(昭和13)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,421 字 · 60 页

青空文庫

瞬く間に屑屋の守蔵は一躍万を以て数える大金を握った。安二郎はうどん屋の出前持ちであったが、兄の商売の秘法を教えられ、生玉町に一戸を構えて、口金商を始めた。妻帯したが、安二郎は副こう丸炎にかゝったことがあって子供は出来ず、一昨年女房がコレラに罷って死ぬと、険をふくんだ人相の悪い顔付きであったが、どこかきりっとしたところがあって女にもてるところから、景気の良いのに任せて松島や芝居裏の遊廓を遊びまわり、深馴染みの妓も出来て、死んだ女房の後釜に、女郎を身請けするだろうと噂されていた。そんな事をされたら、うちの娘たちの縁談に傷がつくやないかと、もと飯屋の女中であった守蔵の女房お兼は、安二郎に強意見した。長女が未だ八つにしかならぬのに、お兼は既に三人の娘たちの立派な縁組みを夢みていたのである。義姉の奴、わいに意見しよった、と女中あがりのお兼を軽蔑していた安二郎は苦い顔したが、さすがに守蔵の手前を憚ってか、その頃一寸話のあったお君を貰うことにしたのである。しかし、お君の美貌には彼も一眼みて頷けるところがあったから、万更でもなかったのだ。もと小学教員の妻であるということはお兼の眼鏡にかなうに充分であった。