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あめ

雨

織田 作之助

「海風 第四巻二号」1938(昭和13)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,421 字 · 60 页

青空文庫

燃えていた品子には不思議なほどにわかに男らしくなくなるのであった。照れてるのかしら、と思われても仕方のないところもあったが、しかし照れさせない品子の技巧に飽くまで抗った本根のところは、自分にも説明出来ない何かであった。

運転手に虐待されても相変らず働いていたのは品子をものにしたという勝利感からであったが、ある夜更け客を送って飛田遊廓の巴里楼まで行くと、運転手は、如何や一丁遊んで行こうか、こゝは飛田一の家やで。どうせ朝まで客は拾えないし、それにその日雨天のため花火は揚らなかったが、飛田遊廓創立二十周年記念日のことであるし、何んぞえゝことあるやろと登楼をすゝめた。勿論断ったが、十八にも成ってと嘲けられたのがぐっと胸に来て登楼った。けちけちしなはんな、どうせこゝは金が敵やと遣手婆にいわれて、財布ぐるみ投げ出し、おまけにポケットにはいっていた銅貨まで一枚二枚と勘定しながら、渡した。哀れな自己陶酔と自ら嘲った気持には、円タク助手などしていていつに成ったら母親を迎えに行けるかという自責が働いていた。長崎県五島の故郷へ出す妓の手紙を代筆してやりながら、何故こんな所へ来た? 親のため、そやけどこんな所とは思わなかったわ。