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あめ

雨

織田 作之助

「海風 第四巻二号」1938(昭和13)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,421 字 · 60 页

青空文庫

最近安二郎は貰い子をすることになっていた。馬鹿らしいやおまへんか、野瀬の身代は大将一人で作ったんやおまへん、御寮さんの働きで半分は作られたんです、女房が一人で寝て亭主が外で泊って来るなんて、一体夫婦といえますかと言われて一々思い当る気がした。豹ぼんのためにももう少し自分を主張せんといけませんよといわれると、ぐっと胸にこたえた。豹一と一緒に何故飛出さなかったんやろというと森田は何か狼狽して、いや飛出さんでもえゝのです、それよか豹ぼんの為に。だが森田は結局は自分の為にお君を慰めていたのである。森田はお君を犯した。巧く立ち廻ったと思ったが、しかし、もはやお君にとってはそれは生理よりもむしろ心理的なものであった。安二郎に知れて、罵倒され打たれて傷だらけになりながら、安二郎の顔に冷やかな眼を据えるのだった。安二郎の顔に懊悩の色が濃く刻まれて行くのを、しげ/″\と見つめるのである。勿論森田は追い出された。しかし森田のねっとりと油の浮いた様な顔は安二郎の頭を絶えず襲って来るのだった。安二郎は初めてお君を女と見た。自分の背後姿をじっと穴のあく程見つめている安二郎を感ずるとお君は、自分にも背後姿があったのだと何か充実感を覚えるのだった。