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ゆきとどろ
雪と泥
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋、1954(昭和29)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,993 字 · 40 页
一
一
「好い男っていうんじゃあないんだ、うん、おとなしくって気の弱そうな性分が、そのまま顔に出てるって感じさ、まだ若いんだ」
「もういいかげんにおよしよ、おまえさん、それは罪だよ」おつねが頸筋へ白粉をぬりながら云った、「それに世間にゃそうそう鴨ばかりいるもんじゃないからね、いまにひどいめにあうよ」
「黙っててよおつね姐さん」ちよのが舌ったるい口ぶりで云った、「それで、ねえそれでどうしたの、おしの姐さん」
「たち昏みのまねをしてみせただけさ」
「どんなふうに……」
「ちょうど伝法院の門のところだったね、お勝ちゃんといっしょにうしろから追いぬいていって、ちょっと立停って、それからふらふらっとお勝ちゃんのほうへ倒れかかったのさ」
「それでたち昏みのように見えるの」
「こつがあるんだ」とおしのは帯をたたみながら云った、「腰の力をぬいて、片っぽの膝をこう、がくっとさせるのさ」
「さんざ精をだしたあとで始末をしに立つときみたいにかい」寐ころんでいるげれ松が云った、「ふん、久しくそんなおもいをしたことがないや、たまには始末をしに立つこともできなくなるほど精をだす相手に逢ってみたいね」