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ゆきとどろ

雪と泥

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋、1954(昭和29)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,993 字 · 40 页

青空文庫

そして坐ろうとしたとき、隣りの四帖半で呼ぶ声がした。

「こちらへいらしって」

おしのの声であった。襖をあけると屏風がまわしてあり、派手な色の夜具を敷いてあるのが見えた。暗くした色絹のぼんぼりが、その夜具の色をいっそう嬌めかしく染めていた。

「ちっとも知らなかった」折之助はそっちへ入っていった、「やっぱり気持が悪くなったんだな」

夜具の中におしのが寝ていた。折之助が近よるまで、掛け夜具にじっともぐっていたが、側へ来たとたんに、彼女はそれをぱっと剥いだ。絞りで模様をおいた鴇色の長襦袢にしごきをしめただけの姿が、あらわに、眼に痛いほど色めいて見えた。

「証拠をみせて、――」

そう云いながら、おしのは(寝たままで)折之助のほうへ手をさし出した。長襦袢の袖が辷って、二の腕までがむきだしになった。

「そんな、だってそれは」

「いやいやいや」おしのは殆んど叫びながら、半身を起こして折之助の手をつかんだ、「あなたは約束をなすったわ、証拠をみせてやるって、ねえ、お願いだからもうなにも仰しゃらないで」

おしのは折之助をひきよせた。まったく思いがけないほどの力で、折之助は夜具の上へ倒れかかった。