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ゆきとどろ
雪と泥
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋、1954(昭和29)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,993 字 · 40 页
彼は本能的に起きあがろうとしたが、おしのの両腕がすばやく首に絡みつき、燃えるように熱い唇が彼の唇を塞いだ。首を巻いた腕の力も強かったし、密着した熱い唇にも、放すことのできない力がこもっていた。
「おうさま、おうさま」おしのは唇と唇の間で喘いだ、「――ね、ね、お願いよ」
折之助は女の手が、自分の帯の結び目にかかるのを感じた。彼はそれを拒もうと思いながら、咽せるような女の躰温と香料の匂いのなかで、まったくその力を失っていた。
「もう死んでもいい」おしのが暴あらしい動作のなかで云った、「これで死ねたら本望よ、このまま死にたいわ」
まるで溺れかかっている者のように、舌のもつれる不鮮明な言葉であった。――それは立て廻した屏風にひびくほど高く、そして乱れていた。折之助は失神しそうな感覚の嵐のなかで、とぎれとぎれにそれを聞いた。
そうして、やがて、――おしのが低く泣きはじめた。折之助が起きて身支度を終っても、おしのは夜具の中で顔を隠したまま泣き続けた。
「堪忍して下さい」泣き声のなかで、おしのはおろおろと囁いた、「あたし悪い女です、どうか堪忍して下さい」
折之助は夜具の脇に坐って、夜具の上からそっとおしのの躯を撫でた。