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ゆきとどろ
雪と泥
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋、1954(昭和29)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,993 字 · 40 页
おそらく肌身はなさず持っているだろうが、これまで気にもとめなかったので、はたしてそのとおりであるかどうかわからない。十幾つもの鍵の付いているのを、客間へ持って出るかどうか、登城するとき、食事のときはどうか。
――いや、絶対に肌身はなさずということはない、必ずどこかに置いておくときがある筈だ。
折之助はそう思った。もちろん鍵にこだわることはない。いざとなれば、金箪笥をこじあけるという法もある。父は三日にいちど登城するから、そのときに充分やれるだろう。
――どっちにしても家にはいられない。
彼はそう覚悟した。おしのの親方に渡す金は百五十両である。それだけの金を父に気づかれずに持出すことはできない。彼はできるだけ多く持出して、おしのを自由にし、そして二人でどこかへ出奔するつもりだった。
――もう二十五だ、どこへいったって二人の生活くらいはやってゆける筈だ。
十一月三十日が父の登城日であった。
それまでにも機会を覘っていたが、まるで計ったように、父は風邪で寝込んでいた。彼がおしのと別れて帰った夜、父は珍しく薬湯など飲んで早く寝たが、そのまま次の日も起きなかった。