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ゆきとどろ

雪と泥

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋、1954(昭和29)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,993 字 · 40 页

青空文庫

――二百両、これでできた。

そう思ったとたん、折之助は全身がふるえだし、両方の膝がしらががくがくとなった。そうして、刀をつきつけたままの姿勢で、うしろ向きにさがりだしたとき、相手が猛然ととびかかった。彼はまったく不意をつかれた。そんな事をされようとは思いもよらなかったので、躰当りをまともに受け、足を取られて仰反けさまに倒れた。相手も逆上していたらしい、折り重なって倒れたが、折之助の手から刀が放れたのを見ると、それを拾ってとび起きさま、両手で棒のように持って、夢中で折之助に斬りつけた。

「誰か来てくれ」とその男は叫んだ、「助けてくれ、辻斬りだ、誰か来てくれ」

そう叫びながら、起きあがろうとする折之助の肩や頸のあたりを、ちょうど棒で叩くかのように、力をこめて続けさまに斬った。

折之助ははね起きて逃げようとした。左の頸のところで、「びゅっ」というふうな音がし、なま温かい湯のようなものが噴き出すのを感じた。

「騒ぐな」と折之助は手を振った、(その手にはもう金包はなかった)それからまたどなった。「――騒ぐな、おれは乱暴はしない、騒ぐと斬るぞ、じっとしていろ」