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ゆきとどろ
雪と泥
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋、1954(昭和29)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,993 字 · 40 页
二
おしのは当然なことを聞いたように、頷きながら銭入を出し、幾らかを紙に包んでお勝に与えた。
「有難う、お汁粉でも喰べてちょうだい」
「いやですわ、番たびこんな」
お勝がそう云ったとき、格子戸のあく音がし、ひどくしゃがれた女の声が聞えた。
「ごめんなさい、おしの姐さんおいでですか」
「あら日掛のおばさんだわ」おしのは締めた細帯を撫でながらお勝に云った。
「お勝ちゃん、済まないけどいまこまかいのがないから、それをおばさんに遣っといておくれな」
二
伊丹主馬は浮かない顔で、池のほうを眺めていた。小出折之助は熱心に話していた。どうかしてうまく自分の思うことを伝えようとして、言葉や表現に苦心しているらしいが、そうすればするほど話しぶりはたどたどしくなり、それがまた伊丹主馬になおさら疑惑をもたせるようであった。
雪もよいに曇った、午後の空を映して、不忍の池は冷たく、錆びたような光りを湛えている。水の上には、ところどころ枯れた蓮や葭や蒲などが、折れたり倒れたりして、暗い繁みをつくってい、その蔭でしきりに鴨の群が騒いでいた。池畔に並んでいる茶屋も、あまり客がないとみえてひっそりしているし、池の向うに見える本郷台の、武家屋敷や深い樹立も、もの憂げにじっと息をひそめているように感じられた。