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ゆきのとかち

雪の十勝

中谷 宇吉郎

――雪の研究の生活――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,729 字 · 8 页

青空文庫

それを楽しみにして特に助手を志願して出る学生も出て来て、大抵いつも十勝行に人手が足らなくて困るということはない。

O老人もよく一緒に行くことが多い。かんじきを穿かしたら誰もこの老人に敵うものはないが、スキーはまだ始めて二年にしかならぬというので、丁度良い同行者なのである。この老人は全く一生を雪の山の中で暮して来たという実に不思議な経歴の人である。この人の話などを聞いていると、雪の山で遭難をするというようなことはあり得ないという気がするのである。一昨年の冬にも犬の皮一枚と猟銃と塩一升だけを身につけて、十二月から翌年の二月一杯にかけて、この十勝の連峯から日高山脈にかけた雪嶺の中を一人で歩き廻って来たというのである。この老人の話をきくと零下二十度の雪の中で二カ月も寝ることが何でもないことのようなのである。もっともその詳しい話を聞き出して見て驚いたのであるが、この老人はわれわれのちょっと及ばぬような練達の科学者なのである。

雪の中で寝るのに一番大切なことは焚火をすることであるそうである。それは極めてもっともな話であるが、厳冬の雪の山で焚火をするのは決して容易な業ではない。