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ゆきのとかち

雪の十勝

中谷 宇吉郎

――雪の研究の生活――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,729 字 · 8 页

青空文庫

ところがこの老人は三段のスロープの蔭に自分たちを連れて行って、何の雑作もなく雪の上で大きい焚火をしてわれわれを暖めて見せてくれたのであった。風の当らぬ所を選んでこれだけの焚火があったら、なるほど雪の中で寝ることも事実普通の生理学と少しも矛盾しないのである。鋸と手斧とマッチが食料品と同様に雪の山では必需品であることを実例で教えてくれたのはこの老人であった。

感心したことは、この老人は出来るだけ文明の利器を利用しようとつとめることであった。魔法瓶だの気圧計だのというものには特別の興味を持ち、かつそれを利用したがるのである。とうとうその思いが一部叶って魔法瓶を買うことの出来た時の無邪気な喜びようには誰もが心を惹かれた。気象の見方、保温の方法、器具の取扱い法、食料としての兎の猟り方から山草の料理法など、すべての事柄について、隅の隅まで行き届いた細かい注意が払われていることが、聞き出すごとに分って来た。このように自分一人の体験で作り上げた科学の体系を持っていて初めて山の生活が安全に遂行されるのであろう。

今年も初霰のたばしる音を聞くと、十勝の生活とこの老人のことが思い出される。