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ゆきのよる

雪の夜

織田 作之助

「文芸」1941(昭和16)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,221 字 · 23 页

青空文庫

下味原町から電車に乗り、千日前で降りると、赤玉のムーラン・ルージュが見えた。あたりの空を赤くして、ぐるぐるまわっているのを、地獄の鬼の舌みたいやと、怖れて見上げ、二つある入口のどちらからはいったものかと、暫くうろうろしていると、突如としてなかから楽隊が鳴ったので、びっくりした拍子に、そわそわと飛び込み、色のついた酒をのまされて、酔った。

会員券だからおあいそ(勘定書)も出されぬのを良いことに、チップも置かずに帰った。暫くは腑抜けたようになって、その時の面白さを想いだしていた。もともと会員券を買わされた時に捨てたつもりの金だったからただで遊んだような気持からでもあったが、実はその時の持ちの瞳のもてなしが忘れられなかったのだ。会員券にマネージャの認印があったから、女たちが押売したのとちがって、大事にすべき客なのだろうと、瞳はかなりつとめたのである。あとで、チップもない客だと、塩をまく真似されたとは知らず、己惚れも手伝って、坂田はたまりかねて大晦日の晩、集金を済ませた足でいそいそと出掛けた。

それから病みつきで、なんということか、明けて元旦から松の内の間一日も缺かさず、悲しいくらい入りびたりだった。