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ゆきま
雪間
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第五十六号」1957(昭和32)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,817 字 · 24 页
二
寝室でぐったりしているだけということはあるまい。霧の中で滋野と向き合って立っていたのはたしかに安芸子だったが、もしそうなら、細君を見る笠原の眼に隙があるというほかはない。それは笠原が自分で気がつかないかぎり、永久に訂正できないような性質のものだった。
「そういうことなら、ご遠慮しましょう。あとでお疲れになると困るから」
「疲れるのが望みだというんです。あの我儘者が勤めたりするはずはないから」
さっきの小間使が入ってくると、笠原は椅子から腰をあげた。
「いいのか……伊沢さん、あれは寝たままなんでしょうが、病人にちがいないのですから、どうか気持を悪くなさらないで」
そういう間もニコニコと笑いやまなかった。
二
広廊のつづきから、ゆるい階段をあがると、ドアの前に小間使が待っていて二人を部屋に迎え入れた。
庭にむいたほうの壁は全体が窓になったラリーク式のガラス壁で、高い天井から床まである赤い天鵞絨のカーテンがどっしりと垂れさがっていた。マットレスを積みあげた正方形のデヴァン・リのそばに大きな夜卓があって、その上にカルトンの笠をつけたスタンドランプが置いてある。