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ゆきざっき

雪雑記

中谷 宇吉郎

「中央公論」1937(昭和12)年12月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,988 字 · 20 页

青空文庫

野外の仕事が封じられた形となったので、自然と研究は実験室内での仕事の方へ向いて行った。それは低温室の中で雪の結晶を人工的に作ろうという問題である。低温室というのは、私のつとめている大学に二年ばかり前に出来た実験室で、八畳間位の室全体が年中零下五十度位まで温度を下げられるようになっている室である。この部屋の中で雪を人工的に作ろうというのであるが、その中で実験するには、勿論服も頭巾も手袋も靴もすっかり防寒用のものを用いるのである。北満の厳寒の野に立つ哨兵と全く同じ服装をして細い物理の実験をしようというのだからなかなか思うように仕事は捗どらない。初めの中はこれだけ十分な防寒用意をしていれば大して身体に悪いこともなかろうと思っていたのであるが、暫くやって見るとこの仕事も余り健康の上には有難くないものだということが分った。零下五十度にすることは滅多にないので、普通は零下三十度附近で仕事をするのであるが、それでも夏になると、外界と五十度位の温度の差がある。即ち部屋に出入りするごとに五十度の気温の急変にあうことになるのであるが、それがどうもいけないらしい。それでこの頃は、実験はすっかり元気な学生の人たちに頼んでしまっているが、それでも暗い低温室の中で、兎の毛の先に作った人工雪の結晶が白く光っている様を思い見ると、時々