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ゆきざっき

雪雑記

中谷 宇吉郎

「中央公論」1937(昭和12)年12月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,988 字 · 20 页

青空文庫

この小人島の器械を低温室の中で使うのはなかなか急にはゆかない。もっともその間は先ず休戦状態で私の方は大いに助かる。しかしやる方は大変だろう。

結晶の出来る条件の方はまあ当分やることが見付かって結構であるが、それと同時に結晶自身をもっとよく見る必要がある。結晶内部の微細構造や角板の中に見える細い縞などが一体何であるかはまだはっきり分っていないのである。今まで世界中で撮られた一万枚以上の雪の写真にあんなに綺麗に出ているこれらの模様の本体がまだ分っていないのだから随分妙な話であるが、本当のところまだよくは分っていないのである。それというのは今まで上から見た写真しか撮られていないからである。この微細構造の研究には、雪を染めて見るとか、油で固めて見るとかいうことも考えられたので、少しやって見たがどうも巧く行かなかった。それで断然正攻法と決めたのである。それは雪の結晶を、問題とする模様の所で二つに切って、その切口を高倍率の顕微鏡で見ようというのである。雪の結晶を切るといっても今のところ別に名案もないので、一つ安全剃刀の刃で切って見ようということになった。若い仲間の一人がこの役を引き受けて、この夏以来毎日低温室の片隅で、横で誰か人工雪を作るのを片っ端から引受けては切っている。