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くものこみち
雲の小径
久生 十蘭
「別冊少年新潮」1956(昭和31)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,634 字 · 33 页
二
も考えております」
と、しみじみと述懐した。
その男が、七つになる女の子を道連れにして、千葉の海岸で投身自殺をした。それが問題になったのらしく、解散したのか、移転したのか、その後、出かけて行ってみると、会はもうなくなっていた。白川は大切な夢を見残したような気持で、当座は、ぼんやりとしていた。
二
チラと人影が動いて、大阪からあいたままになっていた白川の隣りの座席に、二十四五の、ぬうとした娘が移ってきた。
黒一色の着付けで、トーク型の帽子につけた小さな菫の花束が、ただひとつの色彩になっている。座席の肱掛けに手をついて、
「白川さん、しばらく」
と馴れきったふうで笑いかけた。
「やあ」
白川は釣りこまれて、会釈をかえしたが、とんだやつと乗合わせたものだと、ひとりでに顔が顰んだ。
「お忘れでしょうか。あたし、二宮の鬼っ子ですのよ」
鼻も顎もしゃくれ、唇まで受け口になり、全体に乾反ってしまったような感じの個性の強い顔で、誰だって、いちど見たら忘れない。お忘れでしょうは、ご挨拶だった。
二宮の先妻の子で、死んだ香世子には継娘にあたるのだが、柚子が美しすぎる継母を憎んでいるように、香世子のほうでも、醜い片意地な娘を好きになれないようで、誰かと柚子の話をするときは、平気な顔で、うちの鬼っ子がという。