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くものこみち

雲の小径

久生 十蘭

「別冊少年新潮」1956(昭和31)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,634 字 · 33 页

青空文庫

「あら、そうなの」

柚子は眼のやり場にも困るといったように、うつむいて手で襟飾をいじりながら、クスクスと笑いだした。白川は説いてきかせる調子になって、

「信じられないひとに説明するのは、むずかしいが、霊というものは、たしかにあるんだね。人間の肉体は物質だが、霊魂は」

と、やりかけると、柚子はおっかぶせるように、

「面白そうだわね。どんなふうにしてお逢いになるのか、くわしく伺いたいわ。話ってのは、そのことだったの」

「面白いなんてことじゃない。厳粛な問題なんで」

「そうでしょうとも。あたしの友達に、ネクロマンシイとかいう西洋の降霊術に凝っているひとがいるので、いくらか、そのほうの知識があるの。いい霊媒にぶつかるのは、運のようなものだって……心霊研究会では、すぐれた霊媒を自分のほうへひっぱるのが仕事で、映画やプロ野球のように、引抜きをやっているっていう話だけど、ほんとうに、そんなことするの?」

「よく知らないね。どうして、そんなことをきく?」

「ただ、ちょっと……」

そういうと、柚子は急にだまりこんで、窓の外の灰色の世界を、ぼんやりとながめだした。

柚子がしゃべりやむと、まわりがにわかに森閑としたおもむきになった。