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くものこみち

雲の小径

久生 十蘭

「別冊少年新潮」1956(昭和31)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,634 字 · 33 页

青空文庫

香世子の霊はそれで帰ったのだとみえ、茨木が覚醒してハッキリした声をだした。

「おすみになりましたようですね。今夜の心霊のごようすは、いかがでした」

「ありがとうございました。はっきりと、よく話せました」

「東京へお帰りになりますか」

「今日は妙義町の菱屋という家に泊ります」

「では、その辺までお送りいたしましょう。ちょっとお待ちを」

茨木はつづきの部屋へ入ると、ワンピースに着換えて出てきた。

「道が楽でございますから、裏山道からまいりましょう」

そういうと、白川の手をひいて石の洞門のあるほうへ歩きだした。

しばらく行くと、霧のなかから滝の音が聞えてきた。おりるといったが、下っているようには思えない。朦朧とあらわれだしては、すぐまた霧のなかへ沈みこむ、さまざまなかたちの岩を左右にみながら、ぶらぶら歩いているうちに、石の柱をおしたてたような台地の上に出た。

雲と霧の名所だけのことはあって、深い谷底から、たえ間もなく雲が噴きあがってきて、大旆のように吹きなびいては、空に消えてゆく。

白川は四方から来る雲に巻かれ、眠いような、うっとりとした気持で煙草を喫っていると、うしろにいた茨木が、