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くものこみち

雲の小径

久生 十蘭

「別冊少年新潮」1956(昭和31)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,634 字 · 33 页

青空文庫

「むこうに見えるのが、菱屋でございます。この雲の道をつたっておいでになればよろしいでしょう」

と、へんなことをいった。

ここまで追いつめた以上、逃がすことはあるまい。香世子の霊が、お手伝いすることもできるといったのは、このことだったのだろう。絶体絶命だ。おれは死にたくないのだ、助けてくれと叫んだところで、ふっと現実にたちかえった。

旅客機はまだ雲の中にいて、脇窓の外には、乳白色の溷濁したものが、薄い陽の光を漉しながら模糊と漂っていた。

夢だったのだろうが、どうしても夢だとは思えない。白川は気あたりがして、上着のポケットに手を入れてみると、指先にツルリとした石楠の葉がさわった。