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くものこみち
雲の小径
久生 十蘭
「別冊少年新潮」1956(昭和31)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,634 字 · 33 页
白川はむしょうに腹がたってきて、
「話をさせるという約束だったろう。霊媒にさわるぐらいが、なんだ」
主事は弱りきった顔になって、
「ねえ、あなた、どうかまあ、落着いてくださいよ。霊のいられるところと現世との間に、無間のへだたりがあるということをですなあ……」
いい加減なことをいって宥めにかかったが、白川はこじれてしまって、主事のいうことなど相手にしない。
「いろいろな所作をして見せるが、苦しんでいるところなぞ、見せてもらわなくても結構だよ。なんの霊だか知らないが、おだやかに話ができないものなのか」
主事は大袈裟にうなずいて、
「ごもっとも、ごもっとも……失礼ですが、よっぽど深くお愛しになっていられた方とみえます。まったくどうもお気の毒な……でもまあ、この手をお離しなすって。そうギュッと掴んでいられては、話もなにもできやしませんから」
そういうと、れいの尤もらしい口調になって、
「では、こういたそうではありませんか。ともかくこの方に、じぶんはもう死んだのだという自覚を与えていただきましょう。お説のとおり、本来、霊に痛覚などあるはずはないので、肉体を持っていたときの記憶……アフター・イメージですか、まあそういった架空の肉体の苦患を、あるかのごとくに悩んでいるわけなのですから、お前は死んだのだと、はっきりわからせておあげ