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かみなり

雷

海野 十三

「サンデー毎日 秋期特大号」毎日新聞社、1936(昭和11)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,706 字 · 40 页

青空文庫

――彼女は、もうこうなれば、彼から恨みがましい言葉を聞いたときには、なにもかもその場に勇敢にぶちまけて、彼の卑屈な性根を叩きのめし、揚句の果に死んでしまってもいいと決心をした。

そこでお里は、重い花束を左手に持ちかえて、しずしずと奥の方へ進んでいったのであった。

「ほんとに四郎さんだったわネ。……ずいぶん暫くでしたのねえ。……」

四郎は木乃伊のように硬くなっていた。

「やあ、お里ちゃん。暫くでしたネ。……ところで今度は、御両親たちは飛んだ御災難で……」

「ええ、飛んだことになりまして。……」

四郎の言葉には、すこし余所余所しいところがあるばかりで、一向恨みがましい節も見えなかった。お里はこれを感ずると、それまでの張りつめた気が急に緩んで、全く弱い女になりきってその場に泣き崩れた。

すこし遅れて入って来た英三は、この場の光景に、ムラムラと憤懣の気持を起した様子で、

「おお貴方が北鳴君ですか。僕がお里の亭主の英三です」

と、叩きつけるように云った。

それを聞くと同時に、四郎の顔から、今までの含羞や気弱さが、まるで拭ったように消え去った。彼は、くそ落付に落付いて挨拶を交わした。