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でんきぶろのかいしじけん

電気風呂の怪死事件

海野 十三

「新青年」博文館、1928(昭和3)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,788 字 · 34 页

青空文庫

赤羽主任に問われて、規律的に「はい」と返事した彼は、懐中から手帖を出してぱらぱらめくっていたが、或る頁を読み上げて報告しようとした。

「おっと、ちょっと僕にだけ見せて呉れ給え!」

云われて、村山巡査は、四囲に湯屋の夫婦やその他役筋でない人間のいることを知って苦笑しながら、その頁を開いたまま手帖を赤羽主任に手渡した。

と、見る見る赤羽主任の面には輝くばかりの喜色が漲った。

「これだ、犯人は判った!」

「えッ、犯人が判りましたか? あの、井神陽吉が、では、犯人なのですか?」

キョトンと解せぬ面持で、村山巡査は反問した。

「いや、然うじゃない。樫田武平、あの男に違いない!」

断乎として云い放った赤羽主任の顔を、事情の判らない一同は不審そうに瞶めた。

「いや、有難う、村山君。君の手帖のお蔭で図らずも犯人、いや有力な嫌疑者が判明した。感謝する!」

益々意外な赤羽主任の言葉、しかしそれはこうであった。

初め赤羽主任は、村山巡査の手帖を受け取った時、感電被害者の井神陽吉の身元を一見するのが目的であったことに間違はなかった。が、それを見ようとして、図らずもその調査項目の前に記されてあった文字が、彼をして一道の光明を認めさせたのであった。